Z Notes Blog by Jim Zumwalt
Z Notes Banner
さようなら、歌舞伎座

(2010年4月9日)

 銀座の歌舞伎座が取り壊されることになりました。ニュースでそのことを聞いた時は、アンも私もショックでした。歌舞伎座に何度も足を運び、公演を見たわけではありません。ただ、周辺の銀座地域一帯で多くの建物が取り壊され建て替えられても、歌舞伎座だけは、その堂々たるたたずまいが、変わらないものの象徴的な存在であり続けてきました。今では、銀座の街並みも、ニューヨークやパリと変わらなくなっています。けれど、歌舞伎座は、東京にしかありませんでした。そこで、アンと私は、この古くからの大切な友人に別れを告げるために、3月公演を見に行くことにしました。

着物姿のご婦人たちと

 アンと私が見た演目は、「菅原伝授手習鑑」の3幕物でした。この日の昼の公演は、華やかな衣装といい、見事な舞台装置といい、劇的な音楽や歌といい、そして素晴らしい演技といい、何もかもが期待通りでした。演目のひとつ「楼門五三桐」は、天下の大悪党・石川五右衛門が、京の都の南禅寺の山門の楼上から桜の花を眺めているところから始まります。客席から見ると、観客は楼上の五右衛門と同じ目の高さにおり、京の都を見下ろしている感覚になりました。場が進むにつれ、門全体がまるで魔法仕掛けのようにせり上がり、門の土台の部分が出て来ると、そこには仇でもある真柴久吉の立ち姿がありました。

3月に私たちが訪れた時点で、歌舞伎座閉場まであと41日でした

 最終幕「女暫」は、最も古い歌舞伎作品のひとつです。悪人に忠臣たちが切られようとしているまさにその時、背後から叫ぶ声がします。「しばぁ~らくぅ~~」。この場面、実は元々男が主人公の歌舞伎十八番「暫」のパロディーです。大詰めで花道の引っ込みからかくも劇的に登場する「ヒーロー」は、「暫」では男性ですが、この「女暫」では優美な「女性」(演じるのはもちろん歌舞伎の「女形」ですが)なのです。あわやの窮地をこの女性が救い、悪人たちが舞台をはけると、彼女は「刀が重すぎて持ち続けられない」と言い、刀を置きます。彼女は恥ずかしそうにそそくさと花道を引き揚げようとしますが、そこに「舞台番」が登場して、役者が六方(「荒事」の役者が花道を引き揚げる時に演じる力強い表現)を踏むところを観客が見たがっているから、そうするようにと言います。私たち観客が大喜びする中、この舞台番が、決まりごとになっている六方の踏み方を彼女に教えます。

 アンも私も、その日の歌舞伎を心ゆくまで堪能しました。さようなら、歌舞伎座…。

ではまた次回。

ジム

Embassy of the United States Embassy Main |  U.S. Citizen Services |  Visas |  Policy Issues |  State Department
Contact Us |  Privacy |  Webmaster